青に憧れた魚         5分24秒 
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 物語&イラスト・村田明美
 朗読・こがみほ







むかし、まっくらな海のそこに

変わりものの魚が

いっぴき、生まれました。



ほかの魚たちはみんな

海の底でエサをとり、やすみ

またエサをとり

まいにち、まいにち、何のギモンもなく

あたりまえに暮らしているというのに



彼だけは、いつも夢見るような目で

ぼんやり、うえのほうを見上げているのです。



       ―― ・ ――



青い揺らめきが....キラキラ....はるか彼方に

ひかっています。



「ああ、なんてキレイなんだろう」



色のない真っ暗な海の底からうえを眺めては

くる日もくる日も、魚はかんがえました。



「あの、青いきらめきの向こう側には、いったい

どんな世界が広がっているのかなあ」



あれこれ想像してみるのですが、

いちども見たことのない世界を

想像するのはやはり、たいへんです。



「そうだ、いっそ自分で見に行けばいい!」



ある日、魚は夢中でおよぎはじめました。



       ―― ・ ――



とはいえ、

深い海の底で一生を過ごすように生まれついた魚が

ちがう世界に行くなんて、たやすいことではありません。



およいでも、およいでも

青い揺らめきは遠いまま....うえに行くにしたがい

体はバラバラになるかと思うほど、痛みました。



それでも、魚はおよぐことをやめません。

いいえ、どうしてやめられるでしょう...







もうろうとした目でうえを見上げれば

そこにはいつもあの青い揺らめきが

やさしく微笑んでいるのです。



どれくらいの時が流れ、どれくらいの痛みに耐えたのか

魚じしん、もうわからなくなっていました。



そのときです。

無数の青いひかりのつぶが

魚のうえに降りそそぎはじめました。



青いひかりたちは

魚を包み込むと、ふわり

まいあがります。
  つぎの瞬間



  まっ青な世界に抱かれていました。



  もう痛みもありません。



  こころも「青」に染まります...



  うえには、ひろがる青い空

  したには青い、青い海



  そうです。



  魚は、空を飛んでいました。



  海の底で青に憧れたときから

  いったいどれほどの歳月が流れたのでしょう。

  ひょっとしたら、いくつもの「いのちの旅」を

  くり返した果てなのかも...しれません。



  憧れつづけた青に抱かれ、かつて魚だったこころは

  いま空たかく、まいあがります。



  せつないほどにふくらむ

  あたらしい憧れを

  その胸に

  抱いて




  END
   Comment
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   進化論にはいろいろな説がありますね。
   外敵をさけ、エサをとりやすくするため、子孫を残すため...
   進化をとげる過程には、いろんな理由が考えられるでしょう。

   けれど、何かが変化するとき、そのエナジーの根底には

   「憧れ」がある...

   そう思うのは、ロマンチスト過ぎますか?

   いつの世にも、ちょっとした変わりものが生まれます。
   彼らは時代や周りに理解されなくても
   憧れと情熱を燃やし、けっしてあきらめない。

   もちろん、ふつうもステキなことです。
   けれど、異端もまた大切な個性。

   「憧れ」というエナジーに

   乾杯しましょう!


   Akemi



※作品の著作権は、作者である村田明美さんに帰属します。このページでは、作者の許可を得たうえで朗読・音声化し、公開しています。

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